伊坂幸太郎が選んだ短編集『小説の惑星』で小説の凄さを知る

「小説の凄さ」を知りたいけれど、一体何から読めばいいのかわからない。物語は好きだけれども、小説以外に漫画や映画、アニメ、舞台、数多のエンタメ作品はある―。そんな人にこそ届けたい、作家・伊坂幸太郎が究極の短編だけを選んだ二冊のアンソロジー。小説って、超面白い。 筑摩書房 小説の惑星 ノーザンブルーベリー篇 / 伊坂 幸太郎 著
『小説の惑星』は伊坂幸太郎が選んだ短編集。伊坂幸太郎が書いたではなく選んだなので要注意。
『オーシャンラズベリー篇』と『ノーザンブルーベリー篇』の2冊が刊行されている。まえがきによると、オーシャンラズベリーとノーザンブルーベリーというのは表紙の絵から思いついたもので特に意味はないらしい。上下とか前後編のように順番をつけたくなかったとのこと。
プロの作家が選んだ短編集は「小説の凄さ」を教えてくれた。
新たな作品に踏み出す一歩
今まで読んだことのない未知の作家の作品に手を伸ばすのはエネルギーが要る。なかなか踏ん切りがつかない。小説でも読もうかな、というときは、ついつお気に入りの作家・絶対におもしろいだろうという作家の作品を選んでしまう…。
そんなことはありませんか?私はあります。
そんな私やあなたのための本が『小説の惑星』。
短編集なのですぐに読めるし、なにしろ、あの伊坂幸太郎が選んだという保証付き。新しい作品に踏み出す最初の一歩として、最適な一冊と言えるだろう。
収録作品
収録作品は以下の通り。
- オーシャンラズベリー篇
- 永井龍男「電報」
- 絲山秋子「恋愛雑用論」
- 阿部和重「Geronimo-E, KIA」
- 中島敦「悟浄歎異」
- 島村洋子「KISS」
- 横光利一「蠅」
- 筒井康隆「最後の伝令」
- 島田荘司「大根奇聞」
- 大江健三郎「人間の羊」
- ノーザンブルーベリー篇
- 眉村卓「賭けの天才」
- 井伏鱒二「休憩時間」
- 谷川俊太郎「コカコーラ・レッスン」
- 町田康「工夫の減さん」
- 泡坂妻夫「煙の殺意」
- 佐藤哲也『Plan B』より「神々」「侵略」「美女」「仙女」
- 芥川龍之介「杜子春」
- 一條次郎「ヘルメット・オブ・アイアン」
- 古井由吉「先導獣の話」
- 宮部みゆき「サボテンの花」
小説の入門編という感じではない
まえがきに、「小説は面白い」と思ってもらえるような作品を選んだ、というようなことが書いてあったが、素直に楽しめるものばかりではない。「悟浄歎異」や「蠅」といった古典的な作品はやっぱりちょっと読みにくい面もあるし、正直、メチャクチャ面白い!というものばかりではなかった。
これまで小説を読んだことのない人向けの入門編というよりも、どちらかというと、すでに小説をある程度楽しんでいる人に新しい世界を紹介してくれている感じ。
初めて読んだ大江健三郎に衝撃を受けた
この短編集の中で自分が最も衝撃を受けたのが大江健三郎の「人間の羊」。伊坂幸太郎のあとがきにもあるように「やばい」話だと思った。「面白い」とか「感動した」ではなく「やばい」としか言いようのない作品だった。
決して楽しい作品ではなく、後味もメチャクチャ悪いが、それでも、文章だけ・文字だけでこんなにも感情が揺さぶられるのかという驚きがある。
大江健三郎の名前はもちろん知っていたが、実際に作品を読んだのは初めてだった。この出会いがあっただけで『小説の惑星』を読んで本当に良かったと思った。
まだ見ぬ惑星への招待状
私が大江健三郎に初めて出会って衝撃を受けたように、『小説の惑星』は読者に何か新しい出会いをもたらしてくれる短編集だと思う。まさに新しい小説の惑星への旅立ちを感じさせる一冊だ。
ぜひ読んでみてください。